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Interview

使命と思えるほどに

辻井 でも一方で、SLはまさに視覚障害に特化した活動なわけじゃないですか。障害とか関係なしに活動する部分と、障害者として活動する部分の両方があって、そのバランスってどうやってとってたんでしょう。わりと自然にできてたことなのかな。

花房 いやいや、ぜんぜん自然じゃなくて。自分のなかでもけっこう揺れてたし、今でも定まってるわけではないです。
とくに高校生までは、障害者の集まりに行くと、そういう人とつるんでる感じがして、正直それって負けなんじゃないかって思ってた時期があったんです。
でもやっぱり同じ経験をしているからこそ共有できる経験とか、教え合えることがあるなって、大学に入ってから気付き始めて。

辻井 そうだったんですね。

花房 高校のときって、クラスについていけばなんとかなってたんです。けど大学ではクラスもないので、自分でどうにかしないといけない。そうなったとき、身に迫るものがあったというか、不安になったんですよね。そういうことを話したり聞いたりできる知り合いが一人もいないって。

辻井 それで必要に迫られて。

花房 はい。でもSLで活動するようになったことがきっかけでアルバイトを紹介してもらえたり、視覚障害者だけでもカラオケ行けるらしい、卓球できるらしいって聞いていろいろやってみたり。ここで知れたことはたくさんあるし、人間関係も広がりました。

辻井 学祭にも視覚障害のある友達が何人か来られて、花房さんが案内されてましたよね。

花房 自分自身もすごく楽しくなってきて。これを後輩に残したいって思ったんです。先輩方が残してくれたからこそ今この体験ができてるわけで、5年後10年後までは責任もてないけど、自分の一つか二つ下ぐらいまではせめて残したいなって。ある種、使命と思いながら会長もやっていました。

辻井 楽しかったし、使命と思えるほど打ち込めたのは素晴らしいですね。

花房 日に日に感じていったのは、周りと同じようにやるって言ったってそうはできない、ならない現実でした。それにやっぱり、権利として主張していかないと切り開けない部分が絶対あるんですよ。それを言っていくときには一人で言うより、団体として言った方が強い。だから、そうしたことができる地盤をつくっておくことがすごく大事だって考えるようになりました。

辻井 なるほどなぁ。その葛藤やジレンマも含めて、花房さんの一端を知れた気がします。

楽しみながら
知ってもらう

辻井 あえて障害っていうのを前に出さずにやってきた部分と、一方でSLの活動をやってきた両方があって、そのなかで物語を書くということが出てきたのかもしれないですね。もしかすると高校生のときの花房さんなら、あえて視覚障害を題材にした話は書かなかったと思うから。

花房 そうですね、高校生のときなら絶対にこんな発想はなかったでしょうね。

辻井 花房さんはSLの会報誌に寄稿する文章として、全盲の女の子が主人公の物語を書いたんですよね。物語にはその主人公をとりまく同級生の友人たちも出てきて、視覚障害があってもなくてもっていう言い方はありきたりなんですけど、全盲の主人公は冗談も言うし、ふざけるし、恋もするし、将来について悩むしって、そういう素朴な学生生活が描かれていてありありと情景が浮かんできました。

花房 2年生から4年生までの3年にわたって、SLニュースという会報誌に掲載してきました。

辻井 書くようになったきっかけって何だったんですか?

花房 すごくゆるいきっかけで。SLニュースは年に2、3回発行しているんですけど、ぼくが会長になったとき、SLニュース担当の人もぼくと同じく4月に担当になったばっかりで、どんな内容にしようって話になったんです。

辻井 どんな会報誌にするかっていうところから始まったんですね。

花房 そうですね。その頃SLには健常者の新入生がわりといたんです。でもそれまでのSLニュースは、視覚障害者の就職体験とか、視覚障害者に寄った情報が多かったんですね。せっかく視覚障害者以外の学生もたくさん参加してくれてるので、もっとそうした人たちにも楽しみながら読んでもらえるものをつくりたいって思って、そういうことをぼくが提案したんです。物語っぽくやったらおもしろくなるんじゃないかって。じゃあ誰が書く?ってなって、言い出しっぺのぼくが書くことになって……。

辻井 そうだったんですね。実際に掲載されたSLニュースをみると、白杖や点字タイプライターの写真、あと手引きのワンポイントアドバイスがコラムで載ってて、たしかに視覚障害のない人たちに向けて書かれていたのがわかります。あとすごく気になったのが、これ「マンガ」って紹介されてますね。

花房 そうなんです。ちょうど京大の点訳サークルがマンガ点訳っていうのされてて、それがこんな感じの書き方だったんですね。それがすごく読みやすかったので、意識的にまねしたわけじゃないんですけど、そこから着想を得たのはあります。

辻井 なるほどなるほど。マンガって考えると、会話ベースで進んでいくこととか、会話文のカギ括弧の前に必ず登場人物の名前があるとか、擬態語や擬音語がたくさん出てくるのも納得です。なるほどなぁ。これを実写にするとおもしろそうですね。

花房 そうですね。二次創作は大歓迎です。

物語を通して、
4年間を通して、
伝えたいこと

辻井 もう一つ気になっていたのが、これは花房さんご自身の話ではないわけですよね。自分の話を書こうとは思わなかったんですか?つまり、創作した理由が何かあるのかなと思って。

花房 そこまで深くは考えてないんですけど、今考えると創作じゃないと描けないこともあったなと思います。特に後半部分は、恋愛や将来に対する心の葛藤を少し書いてて、自分を主人公にすると照れくさくて書きにくかったり、ちょっとかっこよく書いてしまったりもするから、そんなことを考えずに書けたっていうのはありました。

辻井 それはすごい大事な気がする。自分のことになると、言い切れないとか知ってほしくないことって、やっぱり人間だからあるわけじゃないですか。でも物語にして自分と切り離されたことで、障害のことも率直に書けたのかなって思いました。

花房 そうですね。自分を主人公にすると言えないことを代わりに言ってくれてる部分はやっぱりあったと思います。
あと、ぼくが書いてるから当然と言えば当然なんですけど、読み返してて妙に登場人物のセリフに共感してしまうことがあって。ぼくのなかではすでに別人格になってるから、不思議な感じでした。

辻井 もし何か主人公に言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?

花房 主人公は保育士になるっていう目標をもっていたので、その夢に向かって頑張ってって、応援してますって言いたいです。妹をみてるような、娘をみてるような、半分そんな気持ちもあったので。誰やねんて感じですけど(笑)。

辻井 いいですね。私も応援したいです。
最後に、読者へのメッセージとか、これから大学に進学してくる後輩のみなさんへのメッセージがあれば、ぜひお願いします。

花房 ぼくのなかではこういう想いで書いたというのもあるんですけど、一つの物語として純粋に楽しんでほしいなって思います。
あと、後輩のみなさんへかー……。そうですね、進むか進まないか、動くか動かないか、たぶんこれから迷うことがすごいたくさんあると思います。ぼくも実際そういう場面がたくさんあって、それこそさっき言った海外に行くプログラムに参加するのもそうですし、アルバイトしてみるっていうのもそうですけど、その都度迷うことってたくさん訪れると思います。小さいことで言ったら、ちょっとあの人に声かけようか、かけないでおこうかとか。
で、迷ったときに、動く方とか進む方を意識的に選んでいくと、世界って広がっていくんだってすごく思ってて。たからそういうきっかけをどっかでみつけてほしいなっていうことを一番伝えたいです。
そのきっかけがあって広がり出すと、本当にいろんなことができるし、楽しいこともある。その分大変なこともあるけど、成長できる。
そこで特に障害もってたりすると、さっきの話にも出てきましたけど、周りからブレーキかけられちゃうこともあるんです。けど、それで迷ったときにやめる方の選択肢や諦める方の選択肢を取ることに慣れてしまうと、なかなか人生楽しめなくなってくるような気がする。できれば動きのある方を選んでみてほしいなって思います。
いろんなところに飛び込んでみて、困ったり大変なことになったら、助けてくれる人や相談乗ってくれる人ってたくさんいるので。そこは思い切って踏み出してほしいなって思いますね。