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Interview

やりたいことは
直接伝える

辻井 そうやってふつうの座学だけじゃなくて、実習とかいろんなプログラムに参加してきたわけですよね。そういう授業って、高校までの教室だけで行われる授業とは全然違うと思うんです。
花房さんがそうやって山登ったり、雪山行ったり、海外行ったりすることに対して、場合によっては誰かがブレーキ踏むこともあるんじゃないかと思うんです。危険なんじゃないかと。そういうことはなかったですか。

花房 そうですね。実はそういうときに心掛けていたことが一つあって、とにかくまずは、直接先生と話すようにしていました。

辻井 直接会って、話す?

花房 大学のプログラムって、書類をもとに話が進んでいくじゃないですか。まず申請書を出して、その書類の備考欄とかに障害のことや場合によっては支援が必要っていうことを書いて提出する。それで、そうした書類がもとに話が進んでいく。

辻井 だいたいそうですよね。

花房 だから、先生のもとに書類が届いてしまう前に、そのプログラムの説明会とかに直接行って、これに興味があるんですって言うようにしてたんです。多少勇気もいりますけど、相手の反応をみながら話せるから、仮に相手がちょっと不安そうな様子になってもどこに不安を感じているかがその場で分かる。でもそれが書類になると、相手が勝手に迷ってイエスかノーの判断を返してくることになるから、どこで迷ったのかなんてわからない。だからなるべく直接話すようにしていました。

辻井 たしかに書類をもとに先に話が進んでいくと、視覚障害とかに慣れていない先生だったら、ケガしたらどうしようとか考える。そうなると消極的な選択をとりがちで、結果的にノーという返事が返ってくるかもしれない。そうならないように、あえて直接会って話すようにしてたわけですよね。そうするようになったのは、何かきっかけがあったんですか?

花房 なんとなく周りに聞く話とか自分の経験から、ちょっとずつそうするようになっていったんですかね。

辻井 でも実際、花房さんと会ったらパワーがあるから、そこまで言うんだったらって感じで進んでいくことがあったかもしれないですね。

花房 京大の先生って、よくわからないこと好きなんですよ(笑)。だから初めてでも、これも勉強だとか言ってすごくおもしろがって接してくださいました。やっぱり研究者なんでしょうね。だから、すごく良い環境にいられたなって感じます。

辻井 それはありがたいですね(笑)。

聞いて、触って、読む

辻井 現在の勉強についても少し聞きたいんですが、卒論を執筆されていますよね。テーマは?

花房 つい先月題目を出したばかりなんですけど、「『英国文明の花』?——好本 督と前世紀転換期イギリスの視覚障害者」っていう……

辻井 へー。

花房 ちょうどその時期に好本督っていう弱視だった日本人がイギリスに渡って、イギリスで視覚障害者の置かれてる状況を学んでくるんです。それで日本に帰国して啓蒙していく。

辻井 外国の歴史研究なんかだと必要な文献を探すのがすごく難しいんじゃないかと思うんですけど、そのへんはどうしてるんですか?

花房 幸い指導教員がイギリスのチャリティー史専門の先生なんですよね。全くかぶってるわけではないんですけど、こういう資料があるんじゃないかってよく助言をいただいています。ほかにも知り合いのつてで相談に乗っていただく人がいます。

辻井 資料はどんなふうに読んでるんですか?

花房 支援ルームを通じて図書館の方でテキストデータに変換してもらっています。あと日本語の文献だったらサピエ図書館とか国立国会図書館で探して、英書だったらBookshareっていうので探すんですけど、そういったところでみつけて、自分でダウンロードしています。一部読める資料もあるので、それであればそのまま読むし、画像のPDFだとそのままの状態では読めないのでテキストデータに変換してもらってるという感じです。

辻井 最近たくさん本読んでるもんね。

花房 いやぁ、どうでしょう(笑)。本当はもっと読まないといけないはずなんですけど。

辻井 そういう文献は、音声で聞くことが多いですか。それとも点字にして読んでる?

花房 言語によって変えてて。日本語は音声で聞いてもある程度理解できるんですけど、英語を音声だけで理解するのは、ちょっとぼくのリスニング能力では無理なので、ブレイルメモで点字にして読んでます。

辻井 なるほど、使い分けてるんですね。

ハードルが高かった
視覚障害者の集まり

辻井 ここからちょっとプライベートな部分もお聞きしていきたいんですけど、学生生活で最も時間をかけたことって何でしたか?

花房 一番は「SL(関西スチューデント・ライブラリー)」の活動ですね。この団体は視覚障害のある学生と、視覚障害とか点字に興味のあるみえてる学生とでつくる団体なんですけど、そこの代表を2年生のときにしてたんです。それがとてもいい経験でした。

辻井 それは高校生のときから入ろうと思ってたわけではないですよね?どうしてそんなに打ち込めたんでしょうか。

花房 えーっと、実は、高校生のときにすでに入ってたんです。中学生ぐらいのときに、とある視覚障害関係の集まりに年1回ぐらい顔を出してたんですが、そこで5、6歳上の大学生の先輩からSLっていう会があると聞いて。なぜかぼくは高校生でも入れると勘違いして、高校生になったとき、入れるんですか?って聞いたら「いいよ」って入れてくれたんです。
だからなんとなくメールだけはずっと受け取り続けてて、何のことかわからないまま高校の3年間は終えたんですけど、大学に入学するときその先輩がまた声をかけてくださって。

辻井 じゃあ、もともとつながりがあったというわけですね。

花房 一応そうですね。ただそんなに熱心に活動するつもりはなかったんですが、京大の点訳サークルの人もSLの役員をされていたので、京大の人もいるのかってちょっとハードルが下がったんですよね。

辻井 ハードルっていうのは?

花房 ぼくはずっと一般校で視覚障害者とのつながりがないままにきてたので、実はそういう集まりとか世界に飛び込むのってわりと勇気がいったんです。ふつう逆ですよね。でもぼくの場合、得体の知れない世界にいくような感じがあって……。

辻井 得体の知れない世界か……。たしかに花房さんの経験とかエピソードを聞いてると、いわゆる視覚障害者っていう属性をあんまり使いたくないというか、視覚障害はあるけど、それを特別視したくない花房さんがいるんだなという感じもします。