【p1】 京都大学HEAP 障害学生支援セミナー 障害のある学生の災害時対策を考える 〔セミナーのタイトルとして、「障害のある学生の災害時対策を考える」が青色太文字の大きい文字で記載されている。〕 DRCと学生による実践をふまえた対話を通じて 〔以下、前説として、青色の文字で記載されている。〕 障害のある学生やその支援者などが、大学生活でまず考えるのは「学ぶこと」についてでしょう。授業への参加や学習環境の整備など、日々の学生生活や自分自身の学びについて考えていきます。しかし、そのような中で見落とされがちなのが「災害への備え」です。 「災害が起きるかもしれない」という不確かな未来のことに目を向け、行動することは簡単なことではありません。 「防災は大事」と理解していても、日常の中でつい後回しにしてしまうのは、ある意味で自然なことと言えるでしょう。 災害時にどのような行動が必要になるのかは、それぞれの状況によってさまざまです。例えば、視覚障害のある学生には情報入手の困難さや避難時の移動など、他の学生とは異なるリスクも存在します。そのため、「自分は災害時にどうするか」を具体的に考えておくことやさまざまな選択肢を持っておくことが大切です。 本稿では、障害のある学生とDRC(障害学生支援部門)による災害時対策のプロジェクト「EPRP(Emergency Prediction&Response Plan:危機予測と自己レスポンス)」の実践について報告したセミナー企画の様子を紹介します。また後半では、同セミナーの参加者から寄せられた問いや感想に対して、DRC の立場から応答し、大学全体としての防災に関する考え方や、個人レベル・部署レベルでどのようなことを意識していく必要があるのかを 考えていきます。 〔青色の文字による前説、終わり〕 〔区切りとして、青色の太い破線がある。青色の破線の下から、トークセッションの内容となっている。〕 村田● 本セミナーのタイトルは「障害のある学生の災害時対策を考える」です。 「考える」としているのには意図があります。今回のテーマは、決まりきった物事や知識を「これが正解」とレクチャーできるものではありません。正解のないテーマだからこそ、私たちも考え続けたいと思っていますし、皆さんと一緒に考えたいと思っています。 【写真(省略)】 代替テキスト セミナーの様子の写真が掲載されている。スクリーンに「障害のある学生の災害時対策を考える HEAP Kyoto Univ.」の内容が表示されており、村田さんがスクリーンの左側でマイクを持って挨拶をされている様子の写真。スクリーンの手前には、手話をされている女性が立っている。手話をされている女性には個人情報保護のためモザイク加工がされている。 〔写真終わり〕 辻井● DRC(https://www.assdr.kyoto-u.ac.jp/drc/)が災害時対策の取組を考えはじめたきっかけは、2018 年6 月18 日に発生した大阪北部地震でした。誰もが戸惑い、焦り、不安になる発災時、自分自身の身を守るためにどう行動すればよいのか。こうした危機意識を土台に、2018年10 月から障害のある学生を対象に災害時対策に取り組んでいます。  トークセッションのテーマである「EPRP」は、その取組の一つです。障害のある学生が自分のことや周囲の環境のことを知り、必要な行動や意識を周りに伝えるきっかけをつくることを目指したワークショップです。 【「トークセッション」というタイトルの箱】 〔青色の線の箱があり、箱の中には以下の内容が記載されている。〕 トークセッション 「視覚障害(全盲)のある学生のEPRPとその後」 〔「視覚障害(全盲)のある学生のEPRPとその後」が青色の大きい文字で記載されている。〕 登壇者: 三好里奈(京都大学 地球環境学堂 修士課程2年) 辻井美帆(京都大学DRC) 村田 淳(京都大学DRC) *所属・学年は2025年5月のもの 〔「トークセッション」の箱、終わり〕 【p2】 村田● では、トークセッションを始めましょう。まずは今回、EPRPに取り組んだ三好さんに自己紹介をしていただきましょう。 三好● 愛媛県松山市の出身で、中学3年生までは地元の盲学校に通いました。高校からは東京の盲学校で過ごし、東京にある大学に進学しました。大学までは寮生活でしたが、大学院進学を機に京都に引っ越して、1年ほど一人暮らしをしています。  視力は太陽の光を少し感じるくらいです。幼少期には少し見えていた経験もあります。  私は単独行動も好きで、大学でも一人で自由に動き回っています。大学院1年生の後期になり、受講する授業が少なくなってからは、さらにその傾向が強くなりました。 村田● 今は、どのような研究をされていますか。 三好● 農村開発論の研究室に所属して、日本の農村のこれからを考えています。着目しているのは、障害者を雇用する農業経営体です。実際に農業経営体を訪ねて、インタビュー調査などをしています。調査にはメンバーと同行することもありますが、研究スタイル、研究内容、それに私の性格からしても、一人で行くことも多いです。 村田● 三好さんのフィールドワークの記録は、ウェブコンテンツで発信されています(https://noufuku.jp/author/miyoshi/)。みなさん、ぜひ、のぞいてみてください。 1 EPRPを始めるきっかけ 〔見出しの枠として、薄いグレーの角丸長方形がある。見出しの枠の中には、「1」として白抜き数字の「1」がある青色の円があり、青色の太文字で「EPRPを始めるきっかけ」が記載されている。〕 入学後、一番はじめに考えるのは教育のこと 〔小見出しとして、「入学後、一番はじめに考えるのは教育のこと」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 三好さんは入学前後からDRCを利用していて、その担当が辻井さんでした。今回のEPRPに繋がるのも、それがきっかけということになりますね。 辻井● 三好さんとは入学試験の前から、授業の配布資料へのアクセス方法など、京都大学の修学環境や支援についての相談ややりとりを重ねてきました。  入学後はさらに具体的に、三好さんはどのような資料がほしいのか、論文はPDFがあれば読めるのか、テキストデータの方が扱いやすいのかなどを確かめながら一緒に考えました。授業では、教員と本人の同意のもと、例えば、先生から授業の1週間前までに授業資料を送ってもらい、図表や写真に代替テキストをつけたり、資料のテキストデータ化をしました。 【写真(省略)】 代替テキスト 「村田 淳さん」というタイトルの写真が掲載されている。村田さんが、パソコンを前にマイクを持って話をしている様子の写真。 〔写真終わり〕 村田● 大学は教育・研究機関です。私たちも学生自身も一番に考えるのは授業や研究のこと。入学していきなり、「災害が起きたらどうしますか?」というような話はしないですよね。とはいえ、これまでの支援の経験もふまえて、緊急時の想定はしていますし、「いつかは話そう」と思いながらスタートを切ったわけですね。 今後に向けて、「種」を蒔く 〔小見出しとして、「今後に向けて、「種」を蒔く」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 辻井さんが三好さんに防災に関する話をしたのはいつごろでしたか。 辻井● DRCでは年に2度、利用登録をしている学生向けに災害や防災に関するリマインドメールを送っています。このメールを送るタイミングで、ちょうど三好さんとの面談があって、「リマインドメールの準備で、最近はずっと災害について考えているんだよね」と軽く話題に出してみたのが、三好さんの入学から2か月後の5月でした。今後に向けて種を蒔くような感覚です。 【リマインドメールの例】 〔「リマインドメールの例」というタイトルがついている、メールの形式をイメージした長方形があり、宛先、差出人、本文の各領域にリマインドメールの内容が記載されている。〕 宛先: xxx@xxx.co.jp 差出人: 京都大学DRC 本文(一部抜粋): 6年前の6月18日、大阪北部地震が発生しました。 自然災害の影響が甚大になればなるほど、DRCをはじめ、大学の機能自体も停止してしまう可能性が高いです。そのため、大切なことは、皆さん個々人が日ごろから準備や想定をしておくことです。 DRCでは、災害時に向けたチェックリストを作成し、ホームページにも掲載しています。 https://URL 〔「DRCでは、」の「DRC」から、下向きの矢印がチェックリストへと伸びている。〕 チェックリスト(一部抜粋) 1:非常時持出バッグ □非常時持出バッグを準備している。 □非常時持出バッグの中身は賞味期限内で使用可能である。 2:避難所 □学内・地域の一時避難所、指定避難所、福祉避難所を知っている。 3:その他 □下宿先(or自宅)で起こりやすい災害(地震・洪水・土砂災害)を知っている。 □家族等と安否確認の手段(LINEや災害用伝言ダイヤルなど)を確認している。 〔リマインドメールの例、終わり〕 【p3】 村田● 三好さんは、どう思われましたか。 三好● 防災は大事だと思いつつ、それ以上に優先したいことがたくさんあって。正直なところ、辻井さんから話を聞いた時も、「すぐにやろう」とは思いませんでした。 村田● そうですよね、学ぶことに意識が向いているわけで、当然の反応だと思います。 2 EPRPをする前の防災意識や避難訓練 〔見出しの枠として、薄いグレーの角丸長方形がある。見出しの枠の中には、「2」として白抜き数字の「2」がある青色の円があり、青色の太文字で「EPRPをする前の防災意識や避難訓練」が記載されている。〕 小中学校の充実した状況から、次第に簡素化する避難訓練 〔小見出しとして、「小中学校の充実した状況から、次第に簡素化する避難訓練」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● これまでに家庭や寮、学校で防災を意識することや、避難訓練はありましたか。 三好● 家庭で防災を意識することはあまりなかったです。ハザードマップで避難場所を確認したり、「地震が起きたら、この食卓の下に入ろう」と話していたくらいです。  一方で、小・中学校の防災訓練は充実していました。年に少なくとも2、3回、寄宿舎では5、6回訓練がありました。地震に限らず、火災や不審者対応などの非常時に備えた訓練です。防災ベルが鳴り、避難のアナウンスが流れて、避難場所まで移動して、全員が避難を終えるまでの時間を計る。他にも、起震車で強い揺れを体験したり、消火器を使ったり、ヘルメットの保管場所を確認して実際に被ったりもしました。  寄宿舎には、私より見える人もいれば、もっと見えにくい人もいます。全員が安全に避難するにはどうすればよいかディスカッションしたのが印象的です。私は慣れた道なら一人でも歩けます。でも、慣れていない道や、瓦礫や物が落ちているようなイレギュラーな環境では、一人でスムーズに移動するのは難しいです。こうした一人ひとりの状況をふまえて、みんなで議論しました。 【写真(省略)】 代替テキスト 「第一部では避難関連物品の展示・紹介を実施」というタイトルの写真が掲載されている。会場の床の上に、エアーストレッチャーなどの様々なストレッチャーが並べられている写真となっている。 〔写真終わり〕 【写真(省略)】 代替テキスト 京都大学の正門正面にある百周年時計台記念館の写真が掲載されている。 〔写真終わり〕  でも、高校や大学になると、次第に防災訓練は簡素化しました。一人暮らしの今は、自分で意識しなければ訓練の機会はありません。防災を考えるのは後回しになっていました。 村田● それでは参加者のみなさんにも話を聞いてみたいのですが、ご参加者の中に以前盲学校で勤務されて、今は大学で支援の仕事をされている方がいらっしゃいます。ここまでの内容について、何かコメントをいただけますか? Aさん● 京都にある大学で障害学生支援室のスタッフをしています。2018年までは公立学校の教員をしていて、最後の10年は盲学校に勤めていました。  公立学校では、定期的に防災訓練をします。寄宿舎でも、月に一度は訓練をしていたので、「もし、ここで何かが起こったら自分はどうすべきか」というイメージがありました。でも、大学では避難訓練はほぼなく、災害が起きた時のイメージがありませんでした。2018年の大阪北部地震で危機感は高まりましたが、コロナ禍で、防災の話題が薄れた印象です。 村田● 義務教育の間は教育機関も「子どもを預かる」責任が強く、「緊急時には児童生徒を守る」という意識で取組がなされています。  しかし、大学生や社会人になると、そうした体系的な取組は少なくなります。それと同時に、自己責任の重みが増していきます。「それぞれで何とかしてください」とまではいかなくても、それに近い状況があることを、私たちは認識しておく必要があります。 行政は学生を「災害強者」として見ている 〔小見出しとして、「行政は学生を「災害強者」として見ている」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 以前、行政のリスク管理担当者に、「災害時、行 【p4】 政は学生という存在をどのように捉えているか」と尋ねた際、「学生さんは災害強者だと思っています」と返答されたことをよく覚えています。つまり、行政側から見ると、大学生は若くて体力や判断力があり、人とのつながりなどのネットワークもある、災害強者と整理できるわけです。  でも、考えてみてください。誰もがその人を「災害弱者」だと認識している状態は、災害時のセーフティ・ネットが効いているともいえます。例えば、自分の暮らすアパートに高齢者が一人で住んでいると知っていれば、緊急時に周りの人は意識するはずです。ただ、「災害強者」とされているコミュニティの中に、「災害弱者」といわれる人がいたらどうでしょうか。災害時、その人が見落とされるリスクは最も高いと言えるかもしれません。  もちろん、支援部署として災害時にどう対応するかは考えています。でも、「災害時はDRCに電話しましょう」というだけでは、選択肢としてあまりに心もとない。「自らできることも考えなければいけない」という思いが、EPRPの取組を始めたきっかけでした。 3 三好さんのEPRPはどのように展開したか 〔見出しの枠として、薄いグレーの角丸長方形がある。見出しの枠の中には、「3」として白抜き数字の「3」がある青色の円があり、青色の太文字で「三好さんのEPRPはどのように展開したか」が記載されている。〕 村田● では、三好さんバージョンのEPRPはどのように展開したのでしょうか。 辻井● 声をかけてから半年後、三好さん自ら「やりたい」と言ってくれたのを機に動き始めました。  そもそもEPRPは、私たちから何かを提供するものではありません。本人に取り組みたいテーマを考えてもらうので、まずはテーマと内容を一緒に考えることから始めました。軽い立ち話も合わせると、10回以上のやりとりを重ね、三好さんから「非常事態が起こった後のことを考えたい」と話があったのを機に、情報収集を始めました。 「なぜ、わたしだけがしなければいけないのか」という違和感 〔小見出しとして、「「なぜ、わたしだけがしなければいけないのか」という違和感」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 三好さんはその時のことを覚えていますか。 三好● まず、話をいただいてから半年空いたのには理由があって…。EPRPを知った時、率直に思ったのは「なぜ、私だけがそうしたことをしなければならないのか」という違和感でした。一般的には、他の大学生はEPRPのような取組が必要だと言われません。「私がすべきことなのか」と葛藤する気持ちがありました。 【写真(省略)】 代替テキスト 「辻井美帆さん」というタイトルの写真が掲載されている。辻井さんが、パソコンを前にマイクを持って話をしている様子の写真。 〔写真終わり〕  でも、考えるうちに、防災のことを考えずに災害に直面する恐ろしさも感じました。そして、災害を具体的にイメージする中でまず思い至ったのが「避難した後」のことでした。避難訓練の経験から、避難行動や助けの求め方はある程度わかっているけれど、避難所に避難した後、そこでどう過ごすか、どんな支援が必要になるのかはわかっていないなと。 インターネットで検索する情報に、不安が募る 〔小見出しとして、「インターネットで検索する情報に、不安が募る」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 実際にEPRPでどういう取組をしたいと考えたのですか。 三好● まずは、被災経験のある視覚障害のある方のお話を伺いたいと思いました。でも、直接お話を伺える方はすぐには見つからなかったので、辻井さんがインターネットで経験談などを探してくれたのですが、そこで出てきたのは、困った経験談ばかりでした。 【写真(省略)】 代替テキスト 「三好里奈さん」というタイトルの写真が掲載されている。三好さんがマイクを持って話をしている様子の写真。 〔写真終わり〕  例えば、お手洗い。通常以上に汚れていることが多く、トイレ個室内の配置を手で触って確認することに非常に抵 【p5】 抗を感じたり、感染症のリスクがあるばかりか、トイレが詰まってしまっている場合、流れていない排泄物を触ってしまった、というエピソードもありました。このようなネガティブな話がたくさんあって、「これは、私は避難所で生きていけるかどうか危ういぞ」と不安になりました。思い描いたゴールまでたどり着くにはステップがたくさんありそうでした。 身近な情報を確かめながら、一緒に考える 〔小見出しとして、「身近な情報を確かめながら、一緒に考える」が青色の太文字で記載されている。〕 三好● そこでまず、京都大学の避難場所に行くことから始めました。「絶望的な状況で自分にできること、備えておくことを考える」最初のステップとして、京都大学の避難場所の確認や、災害時の基本の復習、避難の方法を確かめることにしました。 村田● まずは、全学生向けにアナウンスされている情報を追いかけたり、確認したりして、どこにバリアがあるのか、周りと同じように動くことがよいのかどうか確かめる。そこから始めたのですね。 辻井● 全学生向けに発信されている情報を三好さんに伝えました。ただ、これに沿って、三好さんが一人で行動できるかは別の問題です。三好さんは避難場所に行ったことがないとのことだったので、「それなら、まず行ってみよう」ということになりました。  三好さんの話にもあったように、実際の避難所生活をどうするかの答えも見つけたかったのですが、情報が少なく、なかなか答えを見つけることができませんでした。そもそも、一人暮らしの大学生の女性は避難時にどうすればいいのかという問いに対して、明確な情報を見つけられなかったわけです。 【写真(省略)】 代替テキスト セミナーの様子の写真が掲載されている。写真では、左側に村田さんがマイクを持って話をされており、その少し後に手話をされている女性が立っている。さらにその右側に、三好さん、辻井さんがすわっている様子の写真。手話をされている女性には、個人情報保護のためモザイク加工がされている。 〔写真終わり〕 【写真(省略)】 代替テキスト 「三好さんのEPRPで、京都大学内の避難場所までの経路を確認」というタイトルの写真が掲載されている。三好さんがガイドヘルプの担当者に誘導されながら京都大学内の道を歩いている様子の写真。 〔写真終わり〕  だからこそ、避難生活をするまでの行動も含めて、一緒に考えて、話し合ってみるしかない。三好さんが周りにしてもらいたいこと、自分でできることを整理して、周りの人たちに知ってもらう。そのイメージでEPRPを組み立てました。DRCのスタッフ、研究科の教務掛や学生サポーターとも「これで困りそうで、こうしようと思っているけど、どうだろう」と話し合いながら一緒に考えていきました。 村田● 基本情報として、京都大学には地震発生時に一旦集合する「一時集合場所」と、安全が確保できた後に移動する「避難場所」があります。22,000人を超える学生と約5,500人の教職員が所属する京都大学は一つの街のような組織ですし、敷地も広い。その中で三好さんのことを直接知っている人は限られます。でも、避難場所に行くと、同級生や先生、所属部署の職員などの知り合いに会える可能性があります。この段階では、三好さん自身がどう行動するかと同じくらい、誰かに三好さんを見つけてもらうことも大切かもしれません。  実際にどんな行動をとるのかは状況によりますが、「今のこのシチュエーションなら、避難場所に行けば誰かに会えるかも」と思えることが行動の後押しになるはずです。 いざ動いてみて、新たな選択肢や情報と出会う 〔小見出しとして、「いざ動いてみて、新たな選択肢や情報と出会う」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 実際に動いてみてどうでしたか。 三好● 行ってみてよかったです。避難訓練中は誘導してもらいながら歩きました。周囲の状況について、「この道はどれくらい広いですか」、「路面はどうなっていますか」と質問して、説明してもらいました。私がよく出入りする建物について、「入り口から出てすぐの場所はどういう状況ですか」と聞くと、「道が狭く、何かが倒れてきたり、落下物などがある可能性は高い」と教えてもらいました。今でも、そこを通るたびに、「ここは災害時に危険な場所だ」 【p6】 と思い出すんです。「ここで揺れがきたらこうしよう」と考えられるようになりました。 村田● 一緒に取り組んだ、他の職員の反応はいかがでしたか。 辻井● たくさんのアイデアをいただき、近隣地域に住んでいる職員からは地域の情報もいただきました。「地域の避難所は自治会に入っていないと受け入れてもらえないかも」と情報を調べてくれるなど、それぞれの情報の中で気づきが生まれました。 村田● 三好さんのEPRPでの取組はシンプルです。三好さんに必要になりそうな避難行動のパターンを関係者で体験して、その場で起こることを予測し、避難行動を整理する。その中で、「これは三好さんがするべき行動か」、「実際にはこの選択はしないのではないか」という意見も出てきます。決められた避難行動の通りに動くことが最も安全かというと、その時の状況次第で判断しなければいけないこともあります。とにかく、いざ動いてみると新たな選択肢や、新たな情報と出会います。  例えば、学生の多くは、京都で一人暮らしをしていても住民票は移していないので、自治体のリストには含まれていません。そうなると、避難所を訪ねた時に「あなたは誰ですか」と言われてしまう可能性が高い。実際に動いて情報を追いかけてみないと、こういうことには気がつきません。 動いてみることで、結果として頼れる場所が増える 〔小見出しとして、「動いてみることで、結果として頼れる場所が増える」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● みなさんは福祉避難所の役割をご存じですか。防災士の資格を持っているスタッフに説明してもらうことにしましょう。 大前● 京都大学ディスアビリティ・インクルージョンセンターで勤務しています。昨年防災士の資格を取得しました。福祉避難所は、災害時に必要なケアやサポートが受けられる避難所で、介護施設や福祉施設が福祉避難所として割り当てられることが多いです。障害のある方は、必要に応じて一般的な避難所から福祉避難所に移動できます。 辻井● 京都市内の福祉避難所は、地域ごとに受け入れる場合と、障害種別で受け入れる場合があります。三好さんとのEPRPでは、視覚障害のある人の福祉避難所を探しました。 【写真(省略)】 代替テキスト 三好さんと辻井さんが机の前に座っている写真が掲載されている。辻井さんがマイクを持ってにこやかに話をされているのを辻井さんの横にいる三好さんが笑顔で聞いており、セミナーのなごやかな雰囲気が感じられる写真となっている。 〔写真終わり〕  視覚障害者の福祉施設に問い合わせたところ、視覚障害のある人の福祉避難所についての具体的な情報は得られなかったのですが、最終的に「被災時に電話ができる状況なら、いつでも連絡してください」と言ってくれました。避難先として、地域の人とつながることも大切ですが、それだけでは心細い。だからこそ、普段からさまざまな人や場所とつながっておくことは必要だと実感しました。一方で、そのつながりを築く行動を障害のある人だけに求めるのか、という課題も見えてきました。 三好● 緊急時に頼れる先を複数持つことは、リスク軽減につながるのではないかという話は、EPRPでも話題になりました。災害時には誰が被災するかわかりません。頼れるはずの人が被災する可能性もあります。今回、福祉施設に聞いてみることで、結果として頼れる場所が増えたのはよかったです。 4 それでも残る不安を、どう考えるか 〔見出しの枠として、薄いグレーの角丸長方形がある。見出しの枠の中には、「4」として白抜き数字の「4」がある青色の円があり、青色の太文字で「それでも残る不安を、どう考えるか」が記載されている。〕 村田● 三好さんのEPRPでは、避難所に関する情報を集め、ディスカッションをしましたが、明確な答えはありません。不十分なこともあるし、そもそも防災対策に完璧はないのかもしれません。不安の残る部分はありましたか。 いくつかの選択肢を持っておく 〔小見出しとして、「いくつかの選択肢を持っておく」が青色の太文字で記載されている。〕 三好● EPRPでは、避難所で私はどんなことに気をつければよいのか、どうすれば情報を得やすいのかを考えました。村田さんからは、「避難所のスペースを指定してはどうか」というアイデアをもらいました。例えば、入り口の近くに場所があれば、さまざまな情報が耳に入りやすくなりますし、周囲の人に声をかけやすいかもしれません。想像して考えてみることで、これまで抽象的だった不安が具体化されたのはよかった点です。  ただ、これまでに被災したことや避難所を訪ねた経験はありません。イメージできていないことがあるはずです。 【p7】 【写真(省略)】 代替テキスト セミナーの様子の写真が掲載されている。スクリーンの前に、左側から村田さん、三好さん、辻井さんが机の前に座っており、三好さんがマイクを持って話をしている様子の写真。村田さんと三好さんの間には、手話をされている女性が立っている。手話をされている女性には個人情報保護のためモザイク加工がされている。 〔写真終わり〕 実際の被災時には混乱もするでしょうし、不安もあります。 村田● たくさんの想像をしましたが、どれも万能ではなく、状況次第のこともあります。数日の避難であれば、「人に尋ねやすい場所」が有効かもしれない。「何かあれば言ってね」と言われても、誰に言えばいいのかわからない時には、見つけてもらえる場所にいることは一つの解決策です。  でも、長期間の避難生活では、話が変わる可能性があります。視覚障害があると「自分が周りからどう見えているか」が捉えづらく、着替えたり、寝たり、食べたりという行動をとる時にストレスを感じるかもしれません。場合によっては、入り口よりも最適な場所がありそうです。話す中で、こうしたことにも気が付いてきます。いずれにせよ、いくつかの選択肢をもっておくことが大切だという話をよくしましたね。 何もしないよりはよい 〔小見出しとして、「何もしないよりはよい」が青色の太文字で記載されている。〕 辻井● 被災時は、どんな人も混乱状態になるはずです。「最初は○○さんを頼れたけれど、1時間後は○○さんがどうなっているか分からない」という状況も想像できます。  三好さんは当初から、想像を重ねる中で、「自分が被災した時に生き延びられるか、何だか絶望的な気がしてきました」と率直な不安を話してくれていました。どれだけEPRPでシミュレーションをしても、実際にどうなるかはわかりません。でも、「何もしないよりはよいのではないか」と思っています。EPRPのような取組の枠でなくても、日々の中で続けられることがあれば、それを続けていく。それしかないと感じています。 村田● 防災対策、災害対策はすればするほどよい。でも、いくら取り組んでも「完璧」には到達しない。そうしたジレンマや葛藤を抱えながら、それでも続けていく。考えすぎて動けないよりは、「よし、やろう」で動き出すというのが私たちの発想でした。動いてみるとわかってくることの方がはるかに多いのです。  今日の話には、「周りの人に知ってもらう」ことの重要性が何度も出ました。でもその一方で、「女性の大学院生が一人で住んでいます」と闇雲にみんなに知ってもらうのは別のリスクがありますよね。 三好● そんな話もしましたね。防災は重要、でもプライバシーも蔑ろにはできない、みたいな。 村田● とはいえ、大家さんくらいには知っておいてもらう方がよいかもしれないですね、とか。やはり明確な答えはありませんが、対話を重ねると気づくことがあります。 頭で考えるよりも、まずは動いてみる 〔小見出しとして、「頭で考えるよりも、まずは動いてみる」が青色の太文字で記載されている。〕 Bさん● 大阪の大学で学生支援センターの職員をしています。  昨年、車椅子の学生が入学しました。避難訓練の中で、6階から1階まで学生を避難する方法を考えてみました。本人に聞くと、車椅子ごと避難したり、担架で避難したりする経験はこれまでになかったようです。学生を集めて、いざ担架で運んでみると、「この階段は怖い。むこうの階段がよさそう」とわかったり、逆に漠然とした不安ばかりだったことについて「意外にできるな」という部分もありました。  大学で働く前は、行政の福祉職でした。強度行動障害の方が入居する施設の責任者を務めたこともあります。その時も避難訓練の重要さは理解していましたが、ベルを鳴らすと、現場がパニックになるからやめた方がいいと、職員は避難訓練の実施に後ろ向きでした。それでも「必要だ」と避難訓練をやってみると、職員からそれぞれの特性に応じた事前準備が行われたり、利用者がパニックにならずに逃げられる絵カードが示されたりと、次々と新しいアイデアや展開が生まれました。  体感は大切で、頭で考えるよりもまずは動いてみないといけないと思った体験です。 5 大学の防災意識をどう高めていくか? 〔見出しの枠として、薄いグレーの角丸長方形がある。見出しの枠の中には、「5」として白抜き数字の「5」がある青色の円があり、青色の太文字で「大学の防災意識をどう高めていくか?」が記載されている。〕 Cさん● 兵庫県の大学から来ました。キャンパスは阪神・淡路大震災の時に被災しましたが、今の学生たちは30年前の震災を知りません。南海トラフ大地震の発生率も高まる中で、学生にどのように意識してもらうか悩んでいます。 村田● 時間がたつにつれて危機意識は薄れていきますね。 【p8】 三好さんはどう考えますか。 三好● 防災から話がそれますが、私は地球環境の問題にも関心を持って勉強を続けています。そこでも、気候変動のもたらす影響の大きさを伝えても、「今のところ大丈夫」と問題視しない人は多く、意識をもってもらう難しさに直面することがあります。防災でも、「起こらない可能性もあるし、実際に今は起こっていない」と緊迫感は薄い。だからこそ、何らかの形で、それぞれが考える機会をもつことが一番近道だし、大切だと感じています。私はそれが避難訓練やEPRPでしたが、他の方法もあるはずです。  先生と何となく防災の話をした、友人と話していて地震の話になった、地域の祭りで災害時の情報が手に入ったなど、わずかでも機会があるのは重要です。辻井さんが私に種を撒いてくださったように、私もいろいろと働きかけられたらと思います。 合理的配慮通知への記載 〔小見出しとして、「合理的配慮通知への記載」が青色の太文字で記載されている。〕 Dさん● 神戸市の大学で職員をしています。お話を聞きながら、授業中に災害が起こった時のことを想像していました。大学は授業を受ける教室が学生によってバラバラです。誰が今どこにいるのかを、誰が把握しているのだろうと…。避難時には放送が流れますが、放送を聞きとれない人がいる可能性に教壇の先生は気づけるだろうかと感じました。 【写真(省略)】 代替テキスト 「車椅子を利用する学生のEPRP」というタイトルの写真が掲載されている。二人の人が、学生が載っている車椅子を持ち上げて階段を登っている様子の写真となっている。一人は車椅子の右側の前部分を持ち上げ、もう一人は後ろから車椅子を持ち上げて階段を登っている。 〔写真終わり〕 村田● 小中高のようにクラスが決まっている状況では、ルールが作りやすいんですね。でも、大学では不特定多数の人たちが多様なシチュエーションで学んでいます。障害のある学生といっても、車椅子に乗っている、白杖を持っているなど、さまざまです。障害のある人がいたとして、それが誰なのか、教員には判断がつかないということもあると思います。  京都大学でも完璧な対策はできていませんが、障害のある学生の合理的配慮について授業担当の教員にお知らせする時に、災害時のことをどう伝えているか、辻井さんに補足してもらおうと思います。 辻井● マニュアルに「発災時は声で指示する」とあったとしても、それだけでは十分な情報が伝わらないこともありえます。例えば、聴覚障害のある学生には、「あっちへ逃げよう」という音声情報は聴こえません。また、視覚障害のある学生の場合は、「あっち」と指差された方向が、逃げる方向なのか、もしくは火災が発生している方向なのかわかりません。そうした時の対応を学生と事前に相談して考えます。  障害のある学生が授業を受ける際、先生方には「合理的配慮通知」が届きます。その通知の中には「災害が発生した時」という項目を加えています。「音声情報だけではわからないので、明確に文字にして伝えてください」、「視覚障害の方が出席していますので、避難行動時には心に留めてください」など、学生と相談して決めた内容を記載しています。  こうした対応を始めてから、まだ発災はないので、実際の教員の動きはわからないところがあります。ただ、配慮依頼通知に記載があると「そういう学生がいる」と意識してもらえる。そう考えて、「災害時」の項目を明確に立てています。 村田● それで教員の行動面を完全に担保できるかというと難しいところはありますが、意識しておいてもらうことは重要ですね。 学生が自分自身で伝えられる方法を考える 〔小見出しとして、「学生が自分自身で伝えられる方法を考える」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● それでも、現実的な対応を考えると、学生自身がその場で発信し、判断できるかどうかが重要だという話になりますし、自分自身でどうしてほしいかを伝える必要性が出てくる。  例えば、車椅子を利用している学生のEPRPでは、車椅子に乗ったまま避難する方法を考えたこともありました。その場合、避難時には車椅子を持ち上げてもらう必要があ 【p9】 りますが、車椅子の構造を理解せずに力任せに持ち上げてしまうと、乗っている人が転落したり、持ち手が怪我をしたりするリスクがあります。そこで考えた答えの一つが、安定して持ち上げられる場所にシールを貼っておく方法です。すると、「赤いシールの箇所を持ち上げて運んでください」と本人が一言伝えれば、初めてその学生に接する教職員や学生でも、「とりあえずシールの場所を持てばいい」と理解できます。このように、少しでもリスクの軽減になる方法を学生たちと一緒に考えています。 きっかけとしてのリマインドメール 〔小見出しとして、「きっかけとしてのリマインドメール」が青色の太文字で記載されている。〕 Eさん● 私の務める大学では、入学時に1回生全員が一斉に受ける授業があります。その際に、学生たちに避難場所を教え、避難訓練をしています。全ての教卓に日英の避難指示書を置いているので、災害発生時の学生への指示、避難の仕方など、常勤・非常勤問わず教員にも周知はできていると思っています。ただ、障害のある学生の避難訓練は不十分なので、今日のお話を参考に取組を進めたいです。 村田● 大学全体で危機意識を高める取組ができればいいのですが、私たちだけではできることに限りがあります。「思い出す機会になれば」と取り組んでいるのがDRCの利用学生へのリマインドメールですね。  DRCの利用者には発達障害や精神障害の学生が多いです。例えば、決まった時間に薬を飲まないといけないというようなことは、意外と見落とされがちな災害時のリスクですね。でも実際は、本人にリスクというイメージがなかったり、他のことが大変で手がまわらなかったりします。メールを流しておくことで、次の面談時に「リマインドメールを見ましたか?」と働きかけることもできます。 何かあった時のために使う情報をまとめる 〔小見出しとして、「何かあった時のために使う情報をまとめる」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● EPRPについて、学内で話をした時に関心を持ってくれた部署のひとつが留学生の担当部署でしたね。 Fさん● 留学生の支援をしています。日本語ができない留学生の場合、アクセスできる情報が制限されやすく、災害時の緊急情報もいきわたりません。地震のない国からくる学生もたくさんいます。災害そのものに対する予備情報が少なく、何が起きているのかも、どういう行動をとるのかも、何を見ればよいのかもわからない。避難をすればよいのか、動かない方がよいのかもわからない状況に陥る可能性があると改めて認識しました。 村田● 京都大学では、保健室的な機能があることや、メンタルヘルスのサポート、障害のある学生が支援を受けられる場所があることなどの情報をまとめて、全学生向けに紹介しています。全ての学生に必要かはさておき、「何かあった時のために使う情報」を配信していて、ここに避難場所や災害時のリスクが紹介されていることは重要ですね。 一人で考えることは難しいから、一緒に考える 〔小見出しとして、「一人で考えることは難しいから、一緒に考える」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 大学で支援の仕事をされていて、ご自身も車椅子ユーザーであるGさんはいかがでしょうか。 Gさん● 大阪にある大学の障害学生支援室で働いています。私の大学には、4月に全盲の学生が入学しました。  私はみなさん以上に「ここで何かが起きたらやばい」と常に思っていますし、「このエレベーターが使えなくなると、どこにも行けない」と考えています。一方で考えれば考えるほど答えは出ないことも体感的にわかっていて、災害のことを考えたくなくなる時があるのも事実です。定期的に考えるプロセスは必要ですが、一人で考えるのは難しい。そこに信頼できるコーディネーターがいて、一緒に一つひとつのステップを踏む。誰かがそうした役割を担ってくれたらなと当事者としても感じます。 トークセッションを終えて 〔見出しの枠として、薄いグレーの角丸長方形がある。見出しの枠の中には、青色の太文字で「トークセッションを終えて」が記載されている。〕 「果たしきれない責任」がある中で、自分たちが今できること 〔小見出しとして、「「果たしきれない責任」がある中で、自分たちが今できること」が青色の太文字で記載されている。〕 村田● 最後に、災害時について考える時に、障害のある学生の支援部署がどのような考えのもとで動いているのか、私たちの姿勢をお伝えして終わります。 【写真(省略)】 代替テキスト 三好さんが笑顔でマイクを持って話をしている様子の写真が掲載されている。三好さんのとなりで辻井さんがにこやかに話を聞いている写真となっている。 〔写真終わり〕 まず最優先に考えているのは、一人ひとりの学生の災害時のリスクをどう軽減するのかという、直接的なリスク対 【p10】 策です。  次に考えることが、社会や周囲にできることと、本人にできることの整理です。そもそも障害というのは、防災に限らず、個人的要因だけでなく、社会的、環境的、組織的な要因が大きく関わるものです。だからこそ、本人のことと同時に、周りがどうなっているのかを考える必要があるのです。ただ、周囲の環境のことは周りの人たちも考えることができる一方で、本人にしか考えられない部分があるのも事実です。これは障害のある人の就労や、学びを考える時も同じです。教育の環境をどう整えるかは組織で考えられても、「どう学びたいか」という問いに対しては本人が向き合っていく必要があります。そのことに寄り添って伴走する姿勢を大切にしたいと考えています。  「責任」ということに対しても、私が支援者として重く感じていることがあります。支援者や教育者は、学生や生徒に対して「責任を持つ」という言葉をよく使います。でも、実際には私たちが全ての責任を引き受けることはできません。どれだけ学生と一緒に考えても、私たちでは行き届かない部分は必ずあります。  私たちは、京都大学の中で誰よりも障害のある学生のことを考えているつもりです。それでも、全ての責任を持てるかというと、持ちきれない部分があります。その現実を受け止めた上で、私たちに何ができるのか。どうすれば学生のリスクを少しでも減らすことができるのか。その問いを手放さずに考え続けています。 【来場者の声】 〔「来場者の声」という薄いグレーの箱がある。箱の中には、以下が記載されている。〕 それぞれの立場で考える防災 〔小見出しとして、「それぞれの立場で考える防災」が青色の太文字で記載されている。〕 Hさん● 和歌山にある大学に通い、学生サポーターとして障害のある学生を支援しています。私は体力もありますし、先ほどの「災害強者」にあたるはずです。でも、災害時に大学の中でどんなことに困るのかは、自分の経験や体験、能力の範囲でしか想像できないと感じています。支援者の想像力では足りない部分はどこか、お話を聞きながら考えていました。  和歌山では南海トラフ大地震への危機感が高まっています。でも、防災機器を闇雲に揃えたり、避難経路をまとめておくだけではそれほど有効ではないのかもしれません。もっと考えなければならない。そのことを痛感しました。 〔「来場者の声」の箱、終わり〕  責任をいかに果たすかではなく、「責任を果たしきれない自分たちが、今できることは何か」を問い続ける。この姿勢が支援部署としてEPRP を進める根幹の考え方です。 * 〔区切りの意味として、青色の太文字の「*」がある。〕  今回、このセミナーを開催するに至ったのは、情報を得ようと思っても必要な情報にたどり着けないプロセスを私たち自身が経験したことがきっかけでした。そういう人たちがもっとたくさんいるかもしれない。それなら、全ての答えを提示できるわけではないけれど、少なくとも「視覚障害 学生 災害時」と検索すればたどり着けるような情報を、私たちからアウトプットしたい。そんな思いでセミナーを企画しました。  さて、これにて閉会です。三好さん、そして参加されたみなさんに拍手をお願いします。 開催日:2025 年5 月17 日(土) 京都大学HEAP(高等教育アクセシビリティプラットフォーム) 京都大学 学生総合支援機構 附属ディスアビリティ・インクルージョンセンター 〒606-8501 京都市左京区吉田本町 E-mail: heap@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp Website: https://www.assdr.kyoto-u.ac.jp/heap/ 編集協力:京都通信社 デザイン:中曽根デザイン