滋賀県における大学等と地域リソースをつなぐ取り組み事例(2015年度〜2022年度) ■はじめに 本取り組みは、日本全国の各地域におけるグッドプラクティスをHEAPで取材し、その概要や経緯・使い方などを紹介するものである。今回、滋賀県の取り組みについてお話を伺った。滋賀県とは地域内での連携促進を目的としたタウンミーティング(滋賀県版)を実施する際に連携させていただいている。その際、かねてより滋賀県は大学生・大学等を対象とした数多くの取り組みを実施していることがわかった。以下、社会福祉法人しが夢翔会(大津市発達障害者支援センターかほん)の小﨑様、山添様にご協力をいただき、滋賀県の取り組み事例の概要を時系列に沿って紹介していく。 ■取り組み ・2015年度~2018年度 大津市発達障害者支援センターかほんが「高校・大学を対象とした発達障害早期支援モデル事業」(厚生労働省事業※:2015年~2018年)を受託した。当該事業では、障害福祉分野が主体となって教育分野(高校および大学)へコンサルテーションを行うことが主たる目的であった。 事業1年目はとにかく事業に関する広報や実態ヒアリングとして、高校と大学へ直接足を運んだ。連携の必要性や重要性は認識してもらえるものの、教育機関にとって福祉機関との連携がイメージしにくかったのか、好意的な反応が得られることは決して多くはなかった。また、教育機関にとって各支援機関の特徴(取り組み内容)が抽象的であり、差別化しにくいことがわかった。 上記の実態を踏まえて、事業2年目から事業4年目は発達障害やその傾向のある高校生・大学生にどのように関わるべきかの手がかりとなる具体性の高いコンテンツ作成を試みた。完成したコンテンツは2つあり、1つめは困り感と自己理解の2軸で類型化を行い、各類型の指導や支援についてまとめた「高校・大学における個々の当事者に応じた直接の指導や支援」(以下、ニーズ整理マップ)、2つめは教育と福祉・労働に関する地域リソースを対象年代ごとにまとめた「卒後もみすえてつながるべき適切な機関」(以下、資源マップ)である。いずれ教育機関(および、当事者や家族)にとってわかりやすいもの、イメージしやすいものを目指した。 ・これらのコンテンツは、実態ヒアリングを基にたたき台を作成し、個別に繋がりのある関係機関および有識者に確認しながら作成した。資源マップに関しては最終的に、滋賀県障害者自立支援協議会 相談支援ネットワーク部会 発達障害分野において、精査されたもの(令和元年版)が公開されている。 ・これらのコンテンツの補足資料として、「支援アイデア集」と「連携マニュアル」を作成した。支援アイデア集では頻繁に寄せられた質問に対してQ&A方式で回答したものをまとめた。連携マニュアルは、障害福祉分野が主体となって教育分野へコンサルテーションを行うという目的から得られた経過をもとに、主として高校・大学との連携を行う支援機関が読むことを想定して作成されており、支援機関が教育の“現場”に関わる具体的手順の例を提示している。同じ教育機関であっても高校・大学ではそれぞれ都合(文化)や支援の方針・内容が異なり、それらを項目ごとに具体的に比較して紹介することで相互理解を深め、“現場”レベルでのコミュニケーションの齟齬を減らすことを目的としている。 ・これらのコンテンツの普及に際しては、コンサル時の説明資料として用いたり、別途使い方に関する勉強会を実施した。 ※当該事業は「発達障害児者支援開発事業」として始まったが、2016年度~2018年度は「発達障害児者地域生活支援モデル事業」と名称変更をして実施された。 ・2019年度~2022年度 大津市発達障害者支援センターかほんが「大学と地域をつなぐ発達障害キャリア支援事業」(厚生労働省事業:2019年~2022年)を受託した。当該事業では、前身事業からニーズが拡大してきた県内全域の大学等に対するコンサルテーションおよびリソース間の連携や情報交換の実施し、「顔の見える関係」の構築を目的とした。 事業1年目から各年度1回は合同研修会および情報交換会を実施している。対象者は広く滋賀県内の大学における支援担当者および地域の支援機関担当者に周知を行っている。また、情報交換会を効果的に実施するために、情報交換会の前の周知の段階で、課題の収集を行いながら情報交換会におけるグループ分けの参考情報にも活用している。 それらの情報交換会とは別に、大学関係者および地域の支援機関担当者(福祉・労働)を集めた小規模の検討会(以下、検討会)の場を年に2回程度実施してきた。この検討会では、発達障害学生を支援するにあたって大学と地域リソースとの連携における課題整理と期待される対応等をまとめたり、資源マップをより効果的に活用するための新たなコンテンツの作成を行った(以下、連係ツール)。発達障害のある学生における機能障害や置かれた状況の個別性は非常に高い。連係ツールでは適切な支援機関に繋ぐために検討すべき観点をあげ、対応した地域資源が見つけられるようになっている。 ・今後の展望 今後も持続可能な形で教育機関・支援機関の担当者の「顔の見える関係」の維持・継続を検討している。 ■参照URL ・滋賀県のWEBサイトにこれまでの「モデル事業」の報告書が掲載されています。 https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kenkouiryouhukushi/syougaifukushi/304436.html ・各コンテンツについては以下をご参照ください。(PDFが表示されます) ニーズ整理マップ(p.6):https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5333233.pdf 支援アイデア集:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5333234.pdf 連係マニュアル:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5333235.pdf 資源マップ(p.9)・連係ツール(p.11):https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5333238.pdf ■おわりに 今回、改めて滋賀県の取り組みを伺って、多岐にわたるコンテンツのすべてにおいて、現場の声を一つひとつ丁寧に形にしていったものであり、具体性や使いやすさが非常に高いものだと感じた。小﨑さんが「コンテンツを作り上げる過程のなかで関係者間の共通認識が形成されていった」とお話しされたように、他の地域で参考にする際には関係者も巻き込んでいく土台や戦略も必要なのだと感じた。また、お話しのなかで「どれも一つのコンテンツだけでは十分ではないことが多いので、人や状況に合わせて複合的に使ってほしい」という意見があった。コンテンツの利用者(支援者)の“技術”についても今後は「顔の見える関係」を通して伝えていきたいと語っていた。 ■謝辞 本シートを作成するにあたって、社会福祉法人しが夢翔会(大津市発達障害者支援センターかほん)の小﨑大陽様、山添恵様に多大なるご協力をいただきました。 公開日:2022年7月15日 発行:京都大学HEAP