学生サポーターの手引き Disability Support Office Supporter's HandBook 最初に伝えたいこと 私たちの「障害」のとらえ方 大学で学ぶとき、「障害」になるものがあるかもしれません。 ここではその障害を学生個人に結びつけるのではなく、環境との相互作用のなかで生じるものととらえます。 人は誰もが個別で多様です。表面的には、多数派・少数派という違いがあったとしても、それぞれに権利が保障されていることに違いはありません。ただ、大学において、ときにそのような権利が保障されていないことが生じるかもしれません。それが障害ゆえに生じているとすれば、それは障害学生支援(disability support)という機能により、解消できる可能性があります。 障害学生支援ルームは、専門的なノウハウやリソースを活用して、このような状況を解決しようとする学生や教職員をバックアップするための専門部署です。そして、その根幹にあるのは、障害に対する差別の禁止と合理的配慮の提供という具体的な指針です。大学における差別の禁止とは、正当な理由なく、障害を理由として差別することを認めないということです。また、合理的配慮の提供とは、主に教育や研究を行う上で障害を理由に不利益が生じている場合に、それらを除去・軽減するためのアプローチです。これは個々のニーズを尊重して、教育や研究の本質と照らし合わせて相違ないか、また大学本来の業務に附随しているかなどの要件を確認しながら、学生の学ぶ権利を保障するものです。 対話を続ける 大事なことは、障害がある状況において何かを優遇するのではなく、妥当な変更・調整(accommodation)をはかるものであるという理解です。そしてその結果、ときには最初に考えていた目標や方法と異なることがあったとしても、常に対話を通じて検討し続けていくことが求められます。 対話においては、当事者である学生の「意思の表明」という、学生自身が何をどのように感じ、どうしていきたいのかを伝えること、またもう片方の当事者である教員や教育組織の主体的な関わりが欠かせません。ときには、最初からうまく意思の表明ができないことがあるかもしれません。そうしたときでも対話を繰り返すことで、その糸口を見つけていきたいと考えています。合理的配慮とは、常に当人同士の対話を中心に検討・実施されていくものになるのです。 社会を見据える もう一つ重要なことは、いずれ学生は社会へ出ていくという視点をもつことです。日々、変化・発達する学生、そして社会の状況を考えれば、それぞれの学生がどうするべきか、また大学の教職員がどう関わるべきかというのは単純な問いではなく、その答えは中長期的な思考・行動によって見いだされていくものではないかと考えています。 障害学生支援ルームでは、権利保障という側面を重視しつつ、短期的に確認しやすい成果だけに焦点化するのではなく、その先を見据えた関わりを大切にしています。そしてここでも常に、学生との対話が必須の要件になります。障害学生支援ルームでは、学生と対話する、学生と一緒に考える、ということを中心に置きたいと考えています。 「障害」に関わるすべての人へ 障害に関わる問題を解消するために必要なことは何か、またそれがうまくいくかどうかについての結論をすぐに出さないでください。対話を重ねることや問題の解決に向けたトライ&エラーには時間がかかります。それでも繰り返すうちに、問題解決の糸口が見えてくるはずです。障害学生支援ルームでは、そのようなチャレンジに対して一緒に考えていきたいと思っています。 学生が学びに向き合うとき、そこに障害によって生じる問題があるとすれば、障害学生支援ルームに相談するという手段があることを伝えたいと思います。 学生総合支援センター障害学生支援ルーム P1 学生サポーターの心構え サポート活動をするうえで大切にしてほしいこと 障害のある学生の「学ぶ権利を保障する」ためのサポート 学生サポーターのみなさんのお仕事は、障害のある学生が、障害のない学生と同じように大学で学ぶために必要なサポートをすることです。 「何を」サポートするかを理解する 学生サポーターのみなさんには、「目の代わり」「耳の代わり」「手や足となって」必要なサポートをしていただきます。そういう意味では「手取り足取り」ではないし、TAのように授業の補助をするわけでもありません。あくまでも「目の代わり」や「耳の代わり」となってサポートをします。 あまり「先回り」をしない 上で書いたこととも関わりますが、みなさんにサポートしていただくのは障害のある学生の困りごとが生じている「部分」であって、全般的なサポートではありません。あれもこれもと先回りしてサポートをやり過ぎてしまうと、サポートを利用している学生の本来の学びが損なわれてしまう場合もあります。ただもちろん、先輩として、同じ学生として、教えてあげられることやできることがあれば、それを止めるものではありません。サポートをしていく中で丁度良いバランスや方法を見つけてください。 分からないことや困ったことがあったら… どうするのが本人にとって良いのか迷うことや困ることがあったら、まずはサポートを利用している学生本人に尋ねてみてください。「こうしてほしい」と言ってくれることもあれば、考えたことがないから一緒に考えたいと言われるかもしれません。それは、サポート利用学生もサポートを受けるのが初めてだったり、サポートをしている側ではないので、サポートの仕方を知っているとは限らないからです。 また、障害学生支援ルームにもぜひ尋ねてみてください。一緒に考えたいと思います。 P2  サポート活動の種類 学生サポーターのみなさんにしていただくサポートには、例えば以下のようなものがあります。 【視覚障害のある学生へのサポート】 ガイドヘルプ等 移動時には、安全に移動ができるよう手引きをします。短い休憩時間中に自転車で混み合う構内を移動することもあります。授業中は配布資料や黒板の読み上げをしたり、教室の様子を伝えます。 紙資料のデータ化 教科書や配布資料の文字(墨字)を読むことができるよう、資料をデータ化するサポートです。スキャン、OCR(自動読み取り)、誤字脱字の確認や図版等の説明を書き込む校正作業があります。 板書代筆 利用学生の代わりに黒板を書き写すサポートです。少し大きめの字でノートをとり、配置や色などを工夫するとノートが見やすくなります。 【聴覚障害のある学生へのサポート】 ノートテイク 先生の話している言葉を文字通訳するサポートです。ノートへの手書きとパソコンでのタイピングに大別されます。いずれも2人1組が基本で、連係して正確で速い文字通訳を目指します。 【肢体不自由学生へのサポート】 移動サポート 手動の車いすを利用している場合、車いすを押して教室間を移動するサポートがあります。 授業サポート 筆記用具や教科書をカバンから出したり、配布資料を受け取る、あるいは教科書のページをめくったり机や車いすの位置を調整します。 【発達障害のある学生へのサポート】 例えば、同時処理の困難な学生が、先生の話している内容を「聞く」ことに集中できるよう「書く」ことを補う板書代筆などがあります。 【その他】 障害学生支援ルームに関わる業務 シンポジウム開催に伴う業務(受付・案内役等)、ガイドブックの製本、サポート用パソコンのアップデート作業など、必要に応じて様々な業務の依頼があります。 P3 サポート各論 ① 視覚障害  視覚障害とは 視覚障害とは、視力(ものの形が分かる)・視野(目を動かさないで見える範囲)のうちどちらか、または両方の機能が十分でないため、眼鏡やコンタクトレンズなどを使用しても、見え方が良くならない状態を言います。視覚障害の原因となる目の病気としては、緑内障・糖尿病性網膜症・網膜色素変性症・黄斑変性症等が挙げられます。 視力について、まったく見えないことを「全盲」、少しは見えることを「弱視」と言います。視野障害は「視野欠損」や「視野狭窄」があり、周辺が見えにくい、中心部が見えない等、見え方は人によって様々です。  コミュニケーション方法 視覚障害のある学生にとって、声だけで即座に相手を判断するのは難しいことです。「○○さんこんにちは、△△の授業で一緒の□□です」という風に、相手の名前を呼び、自分の名前も言って挨拶してください。また、目で見えた情報は具体的に説明して伝えると良いです。そのほか、困っていると思ったら、まず本人に声をかけて尋ねてみてください。  視覚障害学生へのサポート 大学内でのサポートとして、主に「ガイドヘルプ等」「紙資料のデータ化」「板書代筆」が挙げられます。 • ガイドヘルプ等 初めての場所や交通量の多い場所を1人で移動することが困難な場合、安全に移動ができるように手引きをします。 その際例えば、階段や段差・溝があれば「上り3段の階段です」「10cmくらいの溝があります」等のように状況を具体的に伝えます。 移動時だけでなく、授業中にも配布資料や黒板、映像資料の視覚情報を読み上げたり、利用学生のニーズに応じて周囲の状況など視覚情報を伝えるサポートも行います。 • 紙資料のデータ化 教科書やレジュメの文字(墨字)を読み上げソフトで読み上げたり拡大したりして読むことができるよう、資料をデータ化するサポートです。ブレイルメモ(携帯型点字入出力ディスプレイ)やすべてのワープロソフトで開くことができるように、テキストファイル形式で保存する場合とPDF化して保存する場合とがあります。このサポートは、授業中に利用学生と一緒に行うものではなく、障害学生支援ルーム内での作業となります。 • 板書代筆 弱視の利用学生に対して、黒板の文字を代わりに書き写すサポートです。特に理数系で板書を多く用いる授業で必要となります。利用学生が見やすいよう、普段より少し大きめに書くことがポイントです。 P4  手順 • ガイドヘルプ等 〔授業開始前 移動〕 ・ 障害学生支援ルームや各教室で利用学生と待ち合わせをします。 ・ サポートが始まったら「学生サポーター」のストラップを首からさげます。 ・ 手引きをするときは、左右いずれかの肘を持ってもらい、利用学生の半歩先を歩きます。歩き出すときは一声かけてください(「行きます」「出発します」等)。 ・ 手引きをする人が、できるだけ車道側を歩きます。 ・ 狭い場所を通過するときは、利用学生に伝え、腕を背中に回して縦列になり通過します。 ・ 階段があれば、直前で利用学生に伝え、形状(上り・下り・何段あるか等)も伝えます。 ・ 階段の終わりには、利用学生の片足が地面についたときに、階段が終わったことを簡潔に伝えます(「階段終わりです」等)。 ・ いすに座るときは、背もたれに片手で触れてもらい、利用学生が自分で着席できるようにします。背もたれが無い場合は、利用学生に伝え、座面に触れてもらってください。 〔授業中〕 ・ 板書の内容を知ることができないので、先生が読み上げなければ、板書を読み上げます。 ・ ビデオやDVD等の映像教材が使用される場合には、音声解説を行います。 ・ 授業中に行うテストの解答は、パソコンやブレイルメモを用いたデータ提出のほか、学生サポーターによる代筆が必要な場合があります 〔授業終了後 移動〕 ・ 授業前と同様に、所定の場所までガイドヘルプを行います。 ・ 障害学生支援ルームにて「支援確認簿」を記入します。 • 板書代筆 〔授業開始前〕 ・ 障害学生支援ルームで板書代筆セット(紙、ペンなど)を受け取って教室に向かいます。 ・ 利用学生の近くに座って、書き終えたノートを1枚ずつ渡せるようにします(本人の希望によっては、離れて座って授業終了後にまとめてノートを渡す場合もあります) 〔授業中〕 ・ 黒板の文字を書き写します。あらかじめ、見やすい文字サイズ、見えにくい色などを本人に確認してノートをとっていきます。 ・ 先生のコメントやレポート締め切り情報など、板書にない情報でも特に重要と思われる情報は付せんに書くなどの工夫をすると良いです。 〔授業終了後〕 ・ 書いたノートを全て利用学生に渡します。 ・ 障害学生支援ルームにて板書代筆セットを返却し、「支援確認簿」を記入します。  留意点 ・ 指示語「あれ」「それ」「ここ」等は、指示している内容が分からなくなるので、できるだけ具体的な名称を言う必要があります。 P5  サポート各論 ② 聴覚障害  聴覚障害とは 聴覚障害とは、聴覚器官の機能障害等により、聞こえない、または聞こえにくい状態であることを言います。聞こえの程度は、音の大きさを示すdB(デシベル)で表され、dBが大きくなるほど聞こえにくい状態であることを示しています。また、機能障害のある部位によって3種類に分類され、音が小さく聞こえる「伝音性難聴」、音が歪み不明瞭に聞こえる「感音性難聴」、それら両方の特徴を合わせた「混合性難聴」があります。補聴手段として、補聴器や人工内耳の装用等がありますが、それらを装用したからと言って必ずしも正常聴力と同等の聴力や聞こえ方になるわけではないことに留意しなければなりません。  コミュニケーション方法 「聴覚口話」「筆談」「手話」などを用います。「聴覚口話」とは、聞こえた音と同時に口の形や表情を読み取りながら、相手の話していることを把握する方法です。話をする側は、口の形をはっきり動かし、ゆっくりと話すと伝わりやすいです。また、聴覚障害のある学生の中には、静かな場所で1対1ならばスムーズに会話ができても、周囲が騒がしかったり、多人数でのディスカッションの場面では会話が困難な人も多いです。そうした場合は、ゆっくり・はっきりと話すほかに、「筆談」「手話」が有効な場合があります。  聴覚障害学生へのサポート 大学内でのサポートとして、主に「手書きテイク」と「パソコンテイク」が挙げられます。どちらも授業中の音声情報を視覚化(文字化)する情報保障支援です。 • 手書きテイク 授業中に書くノートとは異なり、先生の話している言葉をできるだけ忠実に書き伝えます。文字列としてだけではなく、矢印や傍線などで情報を図形化できることが特徴です。数式が多用される理系の授業や、語学科目で用いられることがあります。 • パソコンテイク 専用ソフト(IPtalk等)を使用し、2人の学生サポーターが連係して文章を完成させていきます。手書きテイクに比べ、情報量が多いことが特徴です。教室とは別の場所から遠隔で行うことも可能です。   P6  手順 〔授業開始前 準備〕  障害学生支援ルームでサポート機材(パソコンなど)を受け取って教室に向かいます。  利用学生の隣、あるいは前後の座席にてサポート機材のセッティングを行います。  時間があれば、パートナー学生や利用学生とサポートに関する打ち合わせをします(座る位置やテイク表示画面の設定、連係入力の場合はどちらが先に打ち始めるか等) 〔授業中〕  サポートが始まったら「学生サポーター」のストラップを首からさげます。  情報保障支援を行います。 〔授業終了後 片付け〕  サポート機材をすべて片付けます。  時間があれば、歩きながらでもパートナー学生や利用学生と振り返りをします(聞き逃したところがあれば補足、利用学生とお互いにフィードバックをしても良い)。  障害学生支援ルームにてサポート機材を返却し、「支援確認簿」を記入します。  留意点  利用学生のニーズに応じて、サポート方法は変更になることがあります。例えば、音声認識システムや黒板を撮影し書き込む方法を組み合わせて行うこともあります。新しい方法をお願いする場合には、事前に説明の時間を頂くことがありますのでご了承ください。  教室内での座席位置は、先生から指定がある場合以外は、特に決めていません。右前方に座ることが多いようですが、利用学生の希望に合わせて、相談して決めてください。 P7  サポート各論 ③ 肢体不自由  肢体不自由とは 肢体不自由とは、身体の動きに関する器官が、病気やけがで損なわれ、歩行や筆記などの日常生活動作が困難な状態を言います。原因としては、脳や脊髄など中枢神経系の障害によるものと、筋肉や骨など非中枢神経系の障害によるものとに大別されますが、多様な原因により生じ、多様な状態像を呈します。機能障害が生じているのが、下肢のみ、上肢のみ、上下肢とも、体幹等その他の器官にも及ぶかによっても状態像は様々に異なります。  車いす利用学生へのサポート 大学内でのサポートとしては「授業サポート」が中心になります。トイレや食事などの身辺介助は行いません(事業所のヘルパーが担当します)。  手順 〔授業開始前 準備〕 ・ 教室内の机を動かし、代わりに専用机を設置します。 ・ 教科書・筆記用具などを車いすにかけているリュックから取り出す等、本人の希望に応じてサポートします。 ・ 学生サポーター用のいすは、基本的に本人の右隣になるよう設置します。  ・ 「学生サポーター」のストラップは、車いすのポケットに入っています。本人に確認のうえ、サポート中は首からさげます。 〔授業中〕 ・ 本人の意思が明瞭で、的確に希望を伝えてくれますので、依頼通りサポートしてください。 主に必要なサポートは、以下の通りです。 〇 レジュメを取りに行く、教材の位置移動、電子辞書の開閉、教科書のページをめくる、テストの際は教材や筆記用具を片付ける、等。 〇 教科書やレジュメを使用する授業は、本人が直接書き込んでメモをとります。 〇 iPodのフリック入力を利用し、文章作成を行う場合があります。 〔授業終了後 片付け〕 ・ 専用机と、学生サポーター用のいすを元の場所に戻します。  留意点 授業サポートは、利用学生にとって必要な時に必要なサポートをしていただくことが重要な仕事です。少し手持ち無沙汰になる時間も待つことが業務の一部ですので、私用やスマホ操作は控えてください。 京都大学学生総合支援センター障害学生支援ルーム 2019年9月